「エアカウンターS」を、いや、放射線測定器を使う上で知っておきたいこと~1cm線量当量と誤差

2012年02月15日
関連ワード:コラム , 基礎知識 , 実用量 , 規格 ,
「エアカウンターS」は誰でも簡単に扱える放射線測定器です。公式サイトでも、とてもわかりやすく解説してくれています。ただ、2ヶ所だけ、非常に難しいことを言っている部分があります。いずれも「エアカウンターS」のスペック表内です。

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air001.gif

表示数値:1cm線量当量率(μSv/h)
誤差:±20%

これ、わかります?

というわけで、このふたつのことに関して説明していこうと思います。

■1cm線量当量率

こちらの写真をご覧下さい。

air002.jpg air003.jpg

丸い球です。これが100%そうなのかどうかは定かではありませんが、これらはICRU球と呼ばれるもの、あるいはそれに近いものです。この球がICRU球だとして話を進めますが、材質、サイズなどがちゃんと決まってます。

・密度:1g/cm^3
・直径:30cm
・材質:酸素76.2%、炭素11.1%、水素10.1%、窒素2.6%

こんな風にできている球です。材質を見てもらえればわかるかもしれませんが、実はこれ、人体組織に模した球なんです。

ICRUとは「国際放射線単位・測定委員会(International Commisson on Radiation Units and Measurements)」です。この組織が「放射線はこういう基準で測るようにしましょう」と勧告を出しました。その勧告に沿ってICRU球ができています。

このICRU球の表面から1cmの深さに放射線を測定する装置を埋め込み、ここにある一定量の放射線を照射します。多くの場合はCs137由来のγ線です。このγ線が先の装置にあたっとき、その装置で表示された数値が「1cm線量当量(率)」です。

1cm線量当量 場所にかかわる1cm線量当量及び個人にかかわる1cm線量当量の総称。場所にかかわる1cm線量当量は、ICRU球を単一方向の面平行ビームの光子で照射したとき、入射方向に沿い入射面から主軸上1cmの深さにおける線量当量。また、個人にかかわる1cm線量当量はICRUスラブを単一方向の面平行ビームの光子で主平面に垂直に照射したとき、入射面から主軸上1cm深さにおける線量当量。1cm線量当量を●で示す。なお、この線量当量率を、●で示す。

[ソース]JISZ4511 照射線量測定器,空気カーマ測定器,空気吸収線量測定器及び線量当量測定器の校正方法

※●は「H」の類なのですが、サイト上では表記しづらいので、詳しくはJISをご参照下さい

※周辺線量当量と個人線量当量のことに関しては今回は省略します。ただ、ここもとても重要なことなので、以下の記事もご参照下さい。

[関連過去記事]
放射線測定器と個人線量計 ~何が違うの?

この先はちょいと端折りますが、こうしてできた基準を元に、放射線測定器は校正されます(かなりザックリとした言い方です)。つまり、私たちが手にしている放射線測定器、具体的に言えば「エアカウンターS」は周辺線量当量率の1cm線量当量率を表示する機器だということです。

なんでこんなにややこしいのかw 実は簡単なことなんです。個人の被ばく量は測定不可能だからですw よーく考えてみて下さい。放射線は皮膚を通り、臓器にも到達し、場合によっては体を貫通していきます。さて、そんな放射線が皮膚、皮下組織、臓器にどれほどの影響を与えるか(=Sv)を出そうとすると、皮膚、皮下組織、臓器に放射線測定器を装着しなければいけませんw それどころか体全体が放射線測定器でないと被ばく量は測定できないんです。

そんなことはできないから、「だったらある基準を設けて、そこから考えようじゃないか」となりました。これが1cm線量当量です。上述のような基準=”仮定”で放射線を測定した場合に、じゃあ、これなら○○Sv/hね、だったら確率的影響としてこういうことがあるかもね、ということを考えましょう。というわけです。

■誤差

スペック表でよく見る誤差とは、正確には「相対指示誤差」と言います。これは校正の段階で、基準となる測定器をまず用意し、この測定器で基準線量当量率を決め、これを私たちが手にするであろう測定器の数値と比べて、どれほどの誤差があるかを意味します。

基準線量率(conventional true value of dose equivalent rate)
国家標準にトレーサブルな基準測定器、基準放射線源等で決定された基準となる線量当量率。

指示誤差(error of inication)
測定点における指示値Hiと基準線量率Htとの差。Hi-Htで表す。

相対指示誤差(I)(relative error of indication)
指示誤差と基準線量率との比。I = (Hi-Ht)×100/Ht %で表す。

[ソース]JISZ4333 X線及びγ線用線量当量率サーベイメータ

たとえば、基準線量率が0.1μSv/hだとします。
これに対して指示値が0.13μSv/hだとします。
指示誤差は 0.13-0.1 = 0.03 です。
相対指示誤差は 0.03×100/0.1 = 30%です。

みなさんが手にしている「エアカウンターS」は基準線量率に対して±20%の誤差があるよと、スペック表は言っています。普段よく「誤差の範囲内」なんて言葉が使われますが、この”誤差”とスペック表の”誤差”とでは意味が違う場合がほとんどです。ここまで意識して誤差という言葉が使われていることは滅多にありません。

■よくある間違い

「エアカウンターSで自宅前を測ってみたら、0.1μSv/h、0.12μSv/h、0.13μSv/h、0.07μSv/hと表示された。おや? ±20%以上も誤差があるぞ! なんでこんなにブレるんだ!」

これは、あらゆる意味で間違っています。まず、何に対して±20%かというと、校正場における基準線量率に対してです。自宅前は校正場ではありません。

詳細は別記事に任せますが、つまり、相対指示誤差と統計誤差を混同した発言ということですね。

ちなみに、同じ条件で放射線を照射した際の測定器が指し示す数値のバラつきは、JISでは変動係数として求めることができると規定されています。「PA-1000 Radi」「PA-1100 Radi」のスペック表にはこれが載っていますね。

「PA-1100 Radi」一覧(楽天市場)
「PA-1100 Radi」一覧(Amazon)

[関連過去記事]
”不確かさ”とは、変動係数とは ~PA-1000 Radiを例に

さらに、基準線源は一定ですが(ちょっと不正確な言い方です)、庭先の放射線は一定にこちらへ向かってきているわけではありません。

ですから、

「Radiだと0.1μSv/h。エアカウンターSだと0.14μSv/h。40%も違う!誤差20%だろ!」

「エアカウンターSだと0.1μSv/hと表示された。ということは、誤差±20%だから本当は0.08~0.12μSv/hくらいなんだな」

これらはメチャクチャだということです。

なぜこのような間違いが起こるのか。それは、根本的に放射線測定器について誤解をしているからです。

とても変に感じるかもしれませんが、放射線測定器は”仮定”に基づき数値を表示します。その”仮定”とは、これまで見てきた通りです。きっちり管理された施設内で、Cs137由来の一定の線量率のγ線が一直線に進んできて、それを垂直に捉えたとしたら、しかも、ICRU球の1cmの深さで測定したとみなして表示するならば、この数値は0.1μSv/hですよ、と。

公園での実測とはまるで違う状況を仮定していますよね。だから目安なんです。しかも、こうしてキッチリと調整された場であっても±20%の相対指示誤差があるんです。公園で、どこからどうやって飛んでくるかわからない放射線を測定して、数値がフラつくのは当たり前です。フラつかない放射線測定器があれば、そっちのほうがおかしいです(これはちょっと言い過ぎかw バックグランドが高ければ比較的安定するかもしれませんね)。

さらに、放射性崩壊の確率、測定器の検出効率なども関係しています。測定には不確かさを生み出す要因がいくつもあります。だからこそ何回も測れと言われます。何回もというのは3回、5回じゃないですよw 最低でも10回、本当は何十回、何百回と測らないといけません。

※余談ですが、これほど仮定と実際がかけ離れているのに、そもそも1cm線量当量率などという基準に果たして意味があるのか、なんてことも有識者の間では議論になっています。

※もっと詳しいことをお知りになりたければ、標準偏差、ポアソン分布、統計誤差なんてキーワードでもググってみて下さい。

[関連過去記事]
TERRA with BT(青歯テラ)における2つの誤差~安く出品されていると言いたかっただけなのに
※TERRAに関する記事ですが、「エアカウンターS」でも同じことが言える内容です

■まとめ

・放射線測定器は仮定の上で成り立っている
・仮定と現実は乖離している
・そもそも放射線は一定では放出されてない

こうしたことを念頭に、「エアカウンターS」で測定して下さい。そうすれば、正しく測定するためにはどうすればいいか、測定された結果をどう読み取ればいいかもわかるはずです。

最後にもうひとつ。「エアカウンターS」はとてもわかりやすいです。初心者の方にも簡単に扱えます。放射線、放射線測定、放射線測定器に慣れ親しむには最適な機種です。ただ、わかりやすいというのは不正確で、「わかりやすくしてくれている」が正確です。つまり、機器が勝手に”何か”を省いているんですね。

だから「エアカウンターS」はダメだと言ってるわけじゃないですよw そうじゃなくて、わかりやすさの裏側には、私たちには見えない”何か”があるかもしれないということです。ややこしい、素人にはわかりづらい”何か”を省くことでわかりやすくしていますが、その代償があるということです(当サイトもしかり!w)。ぜひ、そのことについても意識的であって下さい。それがより正しい、より深い、放射線、放射線測定、放射線測定器に対する理解へとつながると思います。

[画像転載元]
http://www.radpro-int.com/dosimeters/environmental/gamma-sphere/index.php
http://www.npl.co.uk/ionising-radiation/dosimetry/products-and-services/...

[参照サイト]
RIST:1センチメートル線量当量
科学技術振興機構:連載講座「放射線防護に用いる線量概念について」第4回被ばく線量モニタリングのための実用量について(吉澤道夫)
製品評価技術基盤機構認定センター:不確かさの入門ガイド
これも過去に書いたことなのですが…。

何もわからず「とりあえず目安に」というのも”目安”。ちゃんと理解した上で「これは目安だから」というのも”目安”。同じ”目安”でもその内実は異なります。どちらがいいとは言いませんが、少なくとも私は後者でありたいと思ってます。

もうひとつ。「誤差」「精度」「正確」こうした言葉も、見る視点によってその意味合いはまったく異なります。普段の生活の延長線上でこうした言葉を何気なく使うのは構いませんが、放射線測定においてこのようなタームを使うのであれば、”測定”という観点からこうしたタームを私は使いたい。少なくとも安易に「エアカウンターSは数値がふらつく! 精度が悪い!」「エアカウンターSって安いけど意外と正確に測れるね」と私は言いたくありません。”私は”ですw

それにしても難しいですね(^^;
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コメント一覧

960. 2013.09.09
>>と私は言いたくありません。”私は”ですw

言わずもがな。

全ての意見は個人の意見なのだから、「私は」なんていう事は付け加える必要はないんですよ。
961. 2013.09.10
あえてカッコ付で、あえて付け加えているあたりの機微を感じとって頂ければ、とw

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