2011/09/30

「空間線量」ってなんだ? ちゃんと説明できますか?

関連ワード:コラム , 基礎知識 ,

2012.09.19追記:空間線量(率)に関する最新版の記事もご参照下さい。というか、そっちのほうがいいと思いますw

空間線量(率)とは~誰も教えてくれない空間線量(率)をわかりやすく説明する最新版


ごく当たり前のように使われている「空間線量」という言葉。当サイトでもよく使っています。けど、「空間線量」ってなんですかね。これを突き詰めて考えると、実に難しく、事態は何気にややこしいということがわかってきます。いや、ほんと難しいです。

まず、一般的なイメージはどうでしょう。たとえば公園で「PA-1000 Radi」を手に持ち放射線を測定します。何を測定しているかというと、多くの人は「空間線量(率)」だと答えるでしょう。つまり、空気中の放射線量(率)が空間線量(率)といったイメージではないでしょうか(以降、特段の理由がない限り、”線量率”も含め”線量”と表現します)。

でも、放射線測定器が表示するのは実用量。英語だと「ambient dose」です。一般名詞として訳せば「周辺環境の放射線量」という意味で、もちろんこれは専門用語「周辺線量」を指します。

「だけど、英語だと”air”とかが使われそうじゃない?」

お目が高い。だけど、残念ながら”air”という単語を使うと、上記のようないわゆる空気中の放射線量、私たちがイメージする”空間線量”とは違う意味になります。具体的に「air」という単語がどのように使われるかを見てみましょう。

absorbed dose to(in) air

[ソース]IAEA:Radiation Quantities and Units

Entrance surface air kerma (in air, no backscatter)

entrance surface air kerma (free-in-air)

[ソース]ICRP:DIAGNOSTIC REFERENCE LEVELS IN MEDICAL IMAGING:REVIEW AND ADDITIONAL ADVICE

airという単語は大きく分けると上記の2つのパターンで使われます。前者は「空気吸収線量」、後者(in air、free-in-air)は「自由空間」という意味です。

後者から説明します。「Entrance surface air kerma (in air, no backscatter)」ここには「air」という言葉が2回出てきます。実はこのふたつの「air」は違う意味です。前者は空気、後者は(自由)空間という意味です。最初の「air」は「空気吸収線量」の空気に通じるものなので後述します。後ろの「air」は「no backscatter」という単語からもわかる通り、自由空間つまり(後方)散乱のない状態を指します。

次に「空気吸収線量」ですが、「吸収線量」とは、放射線場に置かれた物質が単位質量あたりに吸収した放射線エネルギーのこと。通常は注目する場所での空気の吸収線量率で表わし、単位はnGy/h(10億分の1Gy/h)を用います(ATOMICA:放射線の吸収エネルギーより)。自治体などがモニタリングポストをしていますよね。あれです。あれが「空気吸収線量」です。

で、ここからがややこしい話です。weblio:原子力防災基礎用語集で「空間線量」を調べるとこう書かれています。

空間線量率(空気吸収線量率)
対象とする空間の単位時間当たりの放射線量を空間線量率という。(中略)原子力発電所では、周辺環境の安全を確かめるため、モニタリングステーション及びモニタリングポストを施設周辺に設置し、環境中の空気吸収線量率を連続して測定している。

[ソース] weblio:空間線量率(空気吸収線量率)

なんと、空間線量率とは空気吸収線量率のことを指すんです! これは驚き。これは予想外w いえ、上記の英語から判断するとわかりますよ。

absorbed dose to(in) air = 空気吸収線量率 = 空間線量率

だけど、冒頭に書いた通り、私たちが「空間線量率」と聞いてイメージするのはどちらかというと「free air」のほう、あるいは「周辺線量」です。

これはおかしな事態です。空気吸収線量に係数をかけたりなんやらすると、これが周辺線量当量になります。両者は別物です。言葉の厳密な意味からすると「空間線量」は空気吸収線量を指すのに、私たちは周辺線量をイメージしています。

言葉のマジックと言えば聞こえはいいですが、これは明らかに誤用、誤用が言い過ぎだとすると勘違いですね。

実はこれ、すっごく重要な問題をはらんでいます。とても重要です。なぜなら、「空間線量(率)」と言った場合に、人によってイメージしているものが違っている可能性があるからです。専門家はごく当たり前に「空気吸収線量率のことだ」と思っているかもしれない。だけど、私たちは「周辺線量(1cm線量当量(率)の周辺線量当量(率)」くらいにしか思ってない。このズレは大きいです。

どのようなズレが生じるかはここでは触れません。話がこの10倍ほど長くなりますのでw お知りになりたい方は、空気吸収線量、空気カーマ、モニタリングポスト、実効線量、GyからSvへの換算、1cm線量当量、周辺線量、こんなタームで調べてみて下さい。以下の資料ももしかしたら参考になるかもしれませんね。

[参考サイト]原子力安全委員会:環境放射線モニタリング指針(PDF)

さて、ちょっとまとめてみます。

  • 私たちが「空間線量」というときは実質的に「周辺線量(当量率)」というイメージを持っている。その証拠にサーベイメーターを空間にかざしています
  • 「air」という単語は空気吸収線量率、自由空間というふたつの意味で使われることが多い
  • 正確に言うと、空間線量率=空気吸収線量率なのに、私たちは自由空間あるいは周辺線量といったイメージで空間線量という言葉を使っている

一般生活において「空間線量」という言葉を使う分には適当でもいいのですが、公的機関や専門機関の発表等を見るときにはちょっと注意が必要ですね。

最後にふたつの余談。

余談その1。これ、何かに似てますね。たとえば、今やもうほとんどありませんが、「放射能」という言葉が「放射線」と混同されていました。あるいは現在でもそうなのですが、「線量計」という言葉が放射線測定器全般を指すかのように使われています(専門家もそう言っている!)。

言葉が違えば意味も違うのに、なぜか適当に使われています。専門家もこうした点に注意を促しません。おそらくは自分たちの知識を基準に考えるものだから、「そんなことは知っていて当然」「説明するまでもない」あるいは「ああ、そんな風に素人は考えているのか」と想像すらできていない。専門家がちゃんとわかりやすく説明しないもんだから、誤解や言葉の誤用が一般人の間でまん延します。

この「空間線量」についても、満足のいく説明をしてくれているわかりやすいサイトが皆無です。なぜ誰も疑問に思わないのか。なぜ誰も説明しようとしないのか。私は不思議でなりません。唯一、不十分ながら、それとなくこのことを言っているのは、このサイトだけ。

「空気中の放射線量」とは何ですか?

元々は、dose in the free airだと思われます。だとすると、この用語は、散乱体なしの線量測定の意味しています。

[ソース]厚生労働科学研究班

ただ、上述の通り、この説明だけでは不十分ですよねぇ。

余談その2。そんなわけで、一般的には周辺線量=空間線量というイメージが強いので、とりあえず現在のところは、当サイトでも周辺線量=空間線量という意味で空間線量という言葉を使っていきます。気持ち的に少し引っかかりますが(^^;

さて、かなり難しい話でした。果たしてあっているのかどうかw 詳しい人、もし間違いがありましたらご指摘お願いしますm(_ _)m

※どーでもいいことなんですが、以前の記事で匂わせていた「重要なこと」とはこのことでしたw

[参照]JISで見る個人線量計とサーベイメーター(放射線測定器/狭義)

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コメント

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エネルギーが重要なの

いつも参考にさせていただいております。

ICRP Pub. 74によると
自由空気中空気カーマから周辺線量当量H*(10)への換算係数は
0.6MeVの光子の場合、1.21(Sv/Gy)
1.0MeVは1.17
このように換算係数は光子(ガンマ線)エネルギーによって変わります。

実用的には空気カーマ=空気吸収線量らしいので
ガンマ線のエネルギーや核種が特定できないと
空気吸収線量から周辺線量当量への換算は簡単にできないですね。。

Re: エネルギーが重要なの

コメントありがとうございます。

測定器(場=周辺線量測定器)の校正段階でもエネルギーによって異なる換算係数が使われてますしね。しかも、単純に何かひとつの数字をかければいいとか、そういう問題でもありません。なのに、「空間線量」という言葉が空気吸収線量としても周辺線量としても使われているというのは、ちょーっと危険と言いますか、誤解を生じさせるかもしれないと。

本文において、吸収線量に何かひとつの係数をかければ簡単に周辺線量(実効線量)になる、みたいに読めてしまったら、それは私の書き方がマズかったです。差し障りのない範囲で簡略して話を進めているつもりなのですが…。すみません(^^;

拍手コメントありがとうございます。

大丈夫、私も素人ですw 一緒に学んでいきましょうw
そして、拍手やコメントはこちらの励みにもなります。
ありがとうございます。

空間線量と言った場合、

・専門用語:空気吸収線量
・一般的なイメージ:空気中の放射線量(≒周辺線量)

という違いがあると思われます。この違いは小さくはない可能性もあるので、注意しましょうということです。

素人のくせにわかった風になって、もしかしたら文章がわかりづらくなっているかもしれませんね。反省します(^^;


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