EPD(電子式ポケット線量計)は日立アロカメディカルの商標です~放射線測定(器)に関する危うい言葉

2014年03月28日
関連ワード:コラム , 実用量 , 規格 , 翻訳 , 日立アロカメディカル ,
「電子式ポケット線量計」という言葉は商標ではありません。ですが、その英訳(Electoric Pocket Dosemeter(Dosimeter)」の略語「EPD」は日立アロカメディカルの商標です。

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[ソース]電子ポケット線量計(EPD(R)) マイドーズシリーズ

なお、電子式個人線量計はElectoric Personal Dosimeterです。略すとこちらもEPD。国内外では普通に一般名詞としてEPDという単語が使われています。ですから、電子式個人線量計をEPDと略し、この単語を商取引上使っていたとしても、アロカの商標権を侵害することにはならないような(理由は後述)。気になる方は、法律の専門家にご相談下さい。

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※テルモからサーモに直ってますねw

それよりも、問題は「ポケット」です。

基本的にポケット線量計は、万年筆型の電離箱式線量計を意味します。

ポケット線量計
万年筆大の大きさと形をもつ電離箱式個人線量計。

[ソース]JIS Z 4001:原子力用語

Pocket Dosimeters

Like pocket chambers, pocket dosimeters are known by a number of other names, e.g., direct-reading dosimeters, self-reading pocket dosimeters and pocket electroscopes. They are actually quartz fiber electroscopes the sensing element of which is a movable bow-shaped quartz fiber that is attached at each end to a fixed post.

[ソース]ORAU:Pocket Chambers and Pocket Dosimeters

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しかし、いつの間にか日本では、”ポケットサイズの線量計”をポケット線量計と呼ぶようになります。いったいなぜそうなったのか。

以下はあくまでも私の想像です。

なぜアロカは電子式個人線量計=EPDではなく、電子式ポケット線量計=EPDで商標を取ったのでしょう。おそらく、前者では商標が取れないからです。普通によく使われている一般名詞は商標登録できません。

そこでアロカは考えました。

「電子式個人線量計を売っていく上で、いい商標はないだろうか。電子式個人線量計と認識してもらえて、かつ、他社製品との差別化を図れる言葉…。よし、”電子式ポケット線量計=EPD”だ!」

こうして”電子式ポケット線量計”が誕生します。EPDの商標出願は1988年(昭和63年)、登録は1994年(平成6年)です。

アロカ(当時)は、富士電機と並んで日本トップシェアを誇るメーカーです。専門家たちはよく利用します。ですから、電子式ポケット線量計という言葉が広まるにつれ、電子式個人線量計をポケット線量計と呼ぶようになります。ポータブル音楽プレイヤーを総称してウォークマンと呼ぶように。商標の一般名詞化ですね。

日立アロカメディカル 個人用放射線線量計マイドーズミニ My dose mini PDM-122 PDM-122B-SHC(マイドーズ
※”個人用”って…。じゃあ集団用があるのかと。法人用があるのかと

ここまでなら別に問題はなかった。ところが、3.11です。専門家しか立ち入らなかった領域に素人が足を踏み入れます。そうするとどうなるか。

これまで専門家が慣習として使っていたポケット線量計という言葉が変容します。素人は言葉の成り立ちを、意味を知らず、イメージで「ポケットサイズの線量計=ポケット線量計」と理解します。さらに、線量計=放射線測定器全般と捉えますから、つまり、ポケットサイズの放射線測定器=ポケット線量計となります。

もはやポケット線量計という言葉に意味も定義もあったもんじゃありません。「PA-1000 Radi」「SOEKS 01M」「RADEX RD1503」「エアカウンターS」「PM1203M」「PM1921」、枚挙にいとまがないほどのサーベイメーターがポケット線量計と呼ばれているのを目にしたことがあります。

個人線量計/Hp(10)である「PDM-122」もポケット線量計。サーベイメーター/H(10)である「エアカウンターS」もポケット線量計。さて、ポケット線量計ってなんじゃらほい。

放射線測定器を十把一絡げに線量計と呼ぶ。「ポケットサイズだから」という安直なイメージのみで「ポケット線量計」という言葉を使う。イメージだけで言葉が蔓延し、定義が共有されないままコミュニケーションがはかられます。

結果、どうなったでしょうか。あちこちで現実的な問題が起こっているように思います。アルファ通信の件、個人線量計による被ばく調査と帰還の件、これらも言葉の定義に関する誤解・不理解が大きな原因のうちのひとつなんじゃないかと。もちろん、それがすべてとは言いませんが。

以下は「ポケット線量計」と「pocket dosimeter」とでgoogle画像検索をしてみた結果です。同じ言葉であるはずなのに、検索結果の差は一目瞭然w

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メーカーが自社製品アピールのため、(電子式)ポケット線量計という言葉を使うのはいい。ちゃんとわかってる人がわかってる人と会話する際も、ポケット線量計と言ってもいい。ですが、私たち一般市民が専門的な領域で言葉を使う際は、そして初心者がいるような場では、言葉の意味、定義に十分気をつけたいものです。

【放射線測定(器)関連で私が常々「危ういなぁ」と感じる言葉】

線量計
サーベイメーターも個人線量計も十把一絡げに”線量計”。こう呼ぶもんだから、両者の差が意識されづらくなります。そもそも違いがあることすら知らない人も多くいます。ガイガーカウンターの原理よりもまず、実用量の違い、周辺線量当量と個人線量当量の違い、サーベイメーターと個人線量計の違いを学ぶことが先だと思うんですけどね。市販されている放射線測定器を普通に使うのであれば。

空間線量(率)
言葉の定義が曖昧なまま、おのおのが自分なりのイメージで”空間線量”という言葉を使う。結果、コミュニケーションがちぐはぐになっているケースをよく目にします。ちなみに、海外では日本で使われているような意味で空間線量という言葉が使われることはまずありません。backgroundかあるいはenvironmental radiationか、あとはなんだろうな。

いわゆるよく使われている空間線量(率)という言葉は、誤訳(air)、言葉の混同(自由”空間”、”空気”吸収線量)から来た日本オリジナルの言葉だと私は理解しています。

積算値
サーベイメーターでも個人線量計でも積算値はあります。重要なのは何を積算しているかです。安易に”積算値”という言葉を使うことは、周辺線量当量と個人線量当量の差を覆い隠し、結果、誤解を生じさせ、あるいは不理解を助長します。積算計という言葉もしかり。

誤差
相対指示誤差と統計誤差を混同している人がいかに多いことか! スペック表に掲載されているのは相対指示誤差です。放射線測定器の画面に表示されたり、実測において計算するのは統計誤差。

「ガイガーは誤差が大きい」
「モニタリングポストとRadiではこんなに誤差がある」
「さっきは0.08、今回は0.12。こんなに誤差がある!」

こういう類のことを言う方は、だいたいわかってらっしゃいませぬ。

1cm線量当量(率)
メーカー(エステー含む)や各省庁には使ってもらいたくない言葉です。これもまた日本独自です。他の国で1cm線量当量(率)という単語だけが使われていることはまずありません! 日本だけです、こんな変なのは。

1cm線量当量(率)といっても、周辺線量当量、個人線量当量、方向性線量当量の3つがあります。それぞれ違うものです。ですから、1cm線量当量(率)という言葉だけでは何も意味しないに等しいのです。放射線測定器、実用量という観点では。

このバカげた書き方が、アルファ通信問題を引き起こしたと言っても過言ではありません。

[関連記事]
放射線測定器業界のバズワード~”pager(ページャー)”という言葉は誰が使ってる?

最後にひとつ。日立アロカメディカルの公式サイトからアラームなしの旧来モデルが一切掲載されなくなりました。現在はアラーム付の「PDM-122B」など”B”のつくモデルしか紹介されていません。

[ソース]日立アロカメディカル:個人被ばく線量計

放射線、正しく測って子どもを救え!「ポケット線量計マニュアル」 [DVD]
※ほう。ポケット線量計ですか。ふーん

※放射線にそれほど詳しくない人が市販されている放射線測定器を使っているという現状を前提とした記事(サイト)です。
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