飲み込まれるEberline~サンタフェの秘密

2013年12月31日
関連ワード:コラム , history , ThermoFisherScientific , eberline , デザイン ,
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サンタフェから始まったEberlineの歴史

1942年、原子爆弾の開発・製造を目指しマンハッタン計画が本格的に始動します。そして1943年、ニューメキシコ州に原子爆弾の研究を進めるための専門機関、ロスアラモス科学研究所が設立されます(現ロスアラモス国立研究所)。

そんなロスアラモス科学研究所で働いていたのがハワード C エバーライン(Howard C. Eberline)です。1940年代後半、同研究所のCRM-12というセクションでα線に対応したサーベイメーター”poppy”などを開発していました。そして1953年、エバーラインは同研究所のすぐ近くのサンタフェに、Reynolds Electrical and Engineering Company(REECO)の子会社としてEberline Instrument Divisionを設立します(”Division”なので、子会社というよりも一部門だったかもしれません)。

同社は1954年に「PAC-1 ”Pee Wee”」、1955年に「Model E-112A」をリリース。他にもウラン探索用サーベイメーターを次々とリリースし大ヒットを飛ばします。そして1958年、同社はREECOから独立してEberline Instrument Companyとなりました(余談ですが、エバーラインは1963年に同社を抜け、新たにEberline and Associatesという企業を立ち上げます)。

Eberline Instrument Companyは産業用コンデンサメーカーや空調メーカーを買収し、さまざまな研究・調査会社に投資。みずからも校正用線源、線量測定、コンサル、放射化学、生物検定、環境サービスといった製品・サービスを提供するための部門を設立します。こうして事業規模はどんどん膨れ上がっていきました。

ところが1979年、EberlineはThermo Electronに買収され分社していきます。放射線測定器の開発・製造部門はEberline InstrumentsとしてThermo Instruments(およびThermo Bioanalysis)の子会社に、各種研究サービス部門はTMA EberlineとしてThermo Environmentalの子会社になりました。

これ以降も、1998年にはThermo Eberline LLC(Thermo Securities Corporation傘下)が、ドイツではThermo Eberline ESMが設立され、Thermo ElectronとEberlineはまるで織物を紡ぐ縦糸と横糸のごとく絡みあっていきます。

[関連過去記事]
Thermo Fisher Scientificの歴史を見てみると「RadEye」の背後に「FH-40H」の亡霊がうっすらと

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対照的なEberlineとLUDLUMの歩んだ道

サンタフェといえばEberline。サンタフェという街の雇用、経済はEberlineが支えていたといっても過言ではありません。それほどEberlineはThermo Electronとともに大きく成長していました。しかし、2007年ごろ、サンタフェの放射線測定器関連事業はすべてドイツへとその拠点を移します。

[ソース]YAHOO! GROUPS:End of an Era

投稿者のつけたタイトルは「End of an Era」。なるほど。この時点で、Eberlineという”時代”は終わったのかもしれません。長年、THERMO ELECTRON EBERLINEというブランド名も使っていましたが、この時点ではもうすでに使われていなかったようですし、現在はEberlineという企業名もブランド名も、すべて使用されなくなっているかもしれません。

いずれにせよ、FHシリーズ、RadEyeシリーズというThermo Fisher Scientific(TFS)の主力はドイツの流れをくんでいます。電離箱式サーベイメーター「SmartION」「2130 Mini-ION」もイギリス系です。

※比例計数管式サーベイメーター「FHT 111」もEberlineの匂いがするのですが、もともとはFAG。ドイツ系です。Bertholdのサーベイメーターに似ていると言った方が、本質を突いている気がします。

考えてみれば、現TFSとEberlineはとても似た企業です。扱っている分野も事業の広げ方も。しかし、より大きなTFSがEberlineを飲み込みます。そして、長い年月をかけ、TFSの体内でEberlineは希釈され、消化されていきました。このことは単なる企業買収の話に留まりません。

1945年3月、ドイツはまだ原爆を作っていないというフランクレポートが上がります。しかし、ロスアラモス科学研究所では原爆の研究・開発が進み、同年7月にトリニティ実験が行われ、8月に広島・長崎へ原爆が投下されました。

他国には決して知られてはいけなかったマンハッタン計画。ドイツやソ連に情報が漏れてはいけません。すべては秘密裏に遂行されます。しかし、戦争が終わって30年ほど経ち、Thermo Electronの体内で、敵対し合っていたドイツとアメリカが融合します。最重要機密事項でもあったはずのドイツとアメリカの放射線測定器あるいは核関連の技術・知識が出会います。

いとも簡単に歴史を飲み込む巨大資本。Eberlineというモンスターでも太刀打ちできなかったTFS…。

しかし、これはEberlineが望んでいた道かもしれません。そのことは意外にもLUDLUMの創始者、ドン・ラドラム(Don Ludlum)の言葉が暗示しています。1950年代後半、ドン・ラドラムはEberlineで働いていました。独立後、1963年にLUDLUMを作るわけですが、このときのことをドン・ラドラムはこう振り返ります。

Don worked as an engineer for Eberline for five years, and in that time he worked his way up to chief engineer. He learned a lot there that helped him develop his own company. One of the most significant things he learned came out of a disagreement with his friend who managed the company. His friend went for the large contracts, but Don thought it was better to serve the basic industry. He said, "It's better to have 10 small contracts rather than one large one." In fact, this disagreement was part of what led Don to leave Eberline to start Ludlum Measurements.

[ソース]The Don Ludlum Story(PDF)

みずからの身を滅ぼすほどにまで大きくなることを望んだEberline。小さくあり続けることを選んだLUDLUM。ドン・ラドラムが感じとったEberlineの気質は、これまで見てきたEberlineの歩んできた道と合致しているように思えます。

Eberlineに吹くサンタフェの風

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Eberlineの電離箱式サーベイメーター「RO-7」です。

遊び心すら感じさせるポップなロゴです。そして、丸みを帯びた太めのゴシック系フォント、バランスの取れたゆったりとした文字間、行間。放射線測定器に表記された文字列で、これほどオシャレなデザインを私は見たことがありません。

落ちついた色合い、余計なものを排したシンプルな外観、大胆な造形もオシャレ。”エバーライン”という語感すらもオシャレに聞こえます。

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LUDLUMのサーベイメーターと似ていますが、決定的に違うことがあります。Eberline製には丸みがあります。オシャレです。LUDLUM製は角ばっていて無骨です。それが一番よく表れているのがハンドルです。Eberlineのハンドルは美しい曲線を描いていますが、LUDLUMのそれはスクエア。この差は何なのか。

ドン・ラドラムは自社製品に特別な名前をあえてつけていません。すべて品番です。これにはワケがあり、ネーミングなんかに力を注ぐくらいなら、製品の品質を上げる努力をすべきだと考えているからです。デザインに関してもしかりです。

一方、ビジネスライクなEberlineにとっては品質もさることながら、売れることが重要です。広く支持されるためには、デザイン性も重視します。だから放射線測定器のフォルム、フォントやロゴにまでこだわります。

エバーラインのこうした思想は、もしかしたらサンタフェという環境も影響を与えていたかもしれません。ヒスパニックが多く、独自の文化を育んできたサンタフェ。街の建造物はどれも、ヨーロッパ風とも南米風とも地中海沿岸風とも思えるような独特な外観を呈し、街全体が異国情緒に溢れています。この雰囲気に多くの芸術家が惹かれ住むようになり、サンタフェは芸術の街としても知られるようになりました。このような街に自社を構えたエバーライン。デザインにことさらこだわったというのも頷ける気がします。

[関連過去記事]
沖国大米軍ヘリ墜落事件で使われた放射線測定器は本当に「eberline E-520」なのか!?

*

日本人の多くが”サンタフェ(Santa Fe)”を知っています。宮沢りえの写真集のタイトルとして、あまりにも有名だからです。しかし、サンタフェという街が原子爆弾の研究の中心地であったこと、Eberlineというとてつもない企業の拠点であったということは、あまり知られていないのではないでしょうか。

サンタフェでつながる宮沢りえとEberline。私は、まだ10代だった宮沢りえの艶めかしい腰や胸のラインを見るにつけ、Eberlineのハンドルやメーターの曲線美、ロゴやフォントの丸みを想起せざるを得ないのです。

-こんな長い記事の、そして今年最後となる記事のオチとしてはいかがなものかと、筆を進めつつ不安にもなるのですが、ま、いっかw というわけで、今年も残すところあと一日となりました。みなさま、よいお年を(^^
最後におまけとして、Eberlineの放射線測定器たちを並べてみます。いちいちオシャレなんだよなぁ。鼻につくほどw

個人的にはEberlineよりもLUDLUMのほうが好きです。確かにEberlineはカッコイイしオシャレです。デザインセンスが抜群です。ただ、”企業が作ってます”という感じがします。なんか冷たい。

一方、LUDLUMは人が作っている感じがする。温もりを感じる。だからLUDLUMのほうが好みですw

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[関連過去記事]
LUDLUMの金属ボディに温もりを感じるワケ
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