年代順に同じ「EPD」を並べてみるとわかる線量概念の移り変わり。そして現状

2012年10月29日
関連ワード:コラム , ThermoFisherScientific , history , 実用量 ,
面白いものを見つけました。細かいことは抜きにして、とりあえず、同じメーカーの同じ機種を3台、並べてみます。すべてSIEMENSの「EPD」シリーズです。3台は製造年代順(古い順)です。

gc_633.jpg
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[ソース]ebay:Siemens EPD1 その1 / その2

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[ソース]Siemens EPD1-D dosimeter RADIOACTIVE TEST(test radioattivo) ☢

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[ソース]Siemens EPD Electronic Personal Dosimeter Thermo Radiation

基本的にはすべて同じです。同じではあるのですがまったく異なります(どっちやねん!w)。何が異なるかというと、基準としている線量が違います。

具体的に液晶画面に表示されるのは、上から「WB/SK」「HP/HS」「Hp(10)・Hp(0.07)」。

「WB/SK」はよくわからないのですが、Whole BodyとSkinでしょう。全身の被ばく量か皮膚の被ばく量を表示するということだと思われます。なんだろうな。実効線量・等価線量っぽいものを表示しようとしているのでしょうか。あるいは今で言うところのambient doseとpersonal doseのようなものなのか…。ちょっとよくわかりません。

「HP/HS」は透過性個人線量(Hp(d))と表層部個人線量(Hs(d))です。聞きなれない単語ですが、それも当然で、両者は個人線量に統一されたので、現在は使われていません。

以前は、透過性個人線量(Hp(d))と表層部個人線量(Hs(d))に分かれていたが、ICRU Report 47、1992年で個人線量に統一された

[ソース]ATOMICA:被ばく管理のための種々の線量

2.ICRU球
国際放射線単位測定委員会(ICRU)はICRU球の使用を勧告している。(中略)ICRU球を、半径14cmの中心核球とその外側1cm厚の殻とに分けて考え、中心核球内での最大線量を「深部線量指標」と呼び、外側1cm厚殻内の最大線量を「表層部線量指標」と呼ぶ。(中略)線量指標の導入によって、放射線防護上の問題点はかなり解消されたが、多種類の放射線が混在する場合には、各放射線成分に対する最大線量を示す球内の位置が異なるし、さらに各種放射線の混在比が時間とともに変化する場合は、最大線量を求めることはますます難しくなる。このため、ICRUは実効線量に代わる放射線管理上の測定量として、以下の量を定義した。
3.周辺線量、方向性線量および個人線量

[ソース]ATOMICA:1センチメートル線量当量

「Hp(10)・Hp(0.07)」は、まさしくその個人線量で、もう少し詳しく言えば、個人線量当量の1cm線量当量=Hp(10)と個人線量当量の0.07mm線量当量=Hp(0.07)です。現在、個人線量計で用いられている線量(基準)です。実用量とも言われます(他に周辺線量、方向性線量があります)。

ところで、昔の線量概念がどういうものなのかということは機会があれば当サイトでも紹介してみたいと思いますが、それよりここで注目したいのは、放射線測定器には基準があるということです。その基準をもとに測定値を表示しています。

今回の例で具体的に言えば、Hp(10)などです。これらは厳格に定義づけられています。また、各国の製品規格で、これをどのように測定し表示するかも規定されています。ICRU球で基準となる線源・線量率(Cs137とかCo60とか)が定まり、これを何メートル離れた、地上何メートルから一直線に個人線量計に照射し、その際の指示値にファントム係数やらなんやらをかけて…と。要は校正ですな。

逆に、その基準から外れた使用方法では、正しい測定値は得られないのですが、この言い方も不正確です。というのも、その基準自体が実測の場においては再現不可能なので、そもそも放射線測定器の指し示す数値は校正通りではありません。これは、目に見えない、常に変動する対象を測定する機器である放射線測定器が抱えている宿命です。

だからこそ「目安」であり、だからこそ、できるだけ正確な測定をするには回数を重ねるなり時間をかけるなりしろと言われます(統計的な問題ね)。これも正確な言い方じゃないな。正確には「不確かさをなるべく排して測定するには」か。

なんてことを見ていますと、いろいろなことを考えさせられます。細かいことを省いちゃいますが、一番思ったのが、測定値ってやつは、いつ・誰が・どこで・何を使って(具体的な機種名)・どうやって(平均値? 地表? 地上1m?)測ったかという情報が付随してこその測定値だよなぁという。当たり前の耳タコですが、何気にそうもなっていないという現状…。

さて、話を戻しましょう。線量概念の移り変わりによって、放射線測定器が基準としている線量も変わっていくというのが、上の3台でよくわかります。じゃ、現在はどうなっているのかというと、基本的には3台目とほぼ変わらないのですが、具体的には「EPD-G」「EPD-MK2」です。メーカーはThermo Fisher Scientific(サーモ社)。

「EPD-G」はγ線用、「EPD-MK2」はβ線にも対応。両者ともHp(10)、Hp(0.07)両方あります。一般ユースはされない個人線量計ですが、いろいろなことを教えてくれる、非常に興味深いシリーズです。

[関連過去記事]
個人線量計「EPD-MK2」が出品! 線量当量の本質を教えてくれるからコイツが面白い!

私たちが使用しているその機種は、いったい何を表示しているか。その測定値はどんな基準でもって校正されているのか。そんな機種を扱うのだったら、どうしなきゃいけないのか。そんなことをいま一度確認し、適切な測定を心がけたいものです。

面白い「EPD」がebayで出品され、ヤフオクでは相変わらず、わけのわからない某機種に入札が集中していて、「なんでだろう…」と不可思議で、あるいは各所であれやこれやが盛り上がっていたり(^^;、そんなことがあったので、こんな記事を書いてみました。
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